H.ヴォルフ《春だ!(Er ist’s)》

今日は、春が訪れる直前のような、どこかそわそわする空気を感じる一日でした。

そんな日に思い浮かぶのが、H.ヴォルフ《Er ist’s》です。

メーリケの詩によるこの歌曲は、春が来たという瞬間の喜びを凝縮した一曲で、短い作品ながら、空気の変化や香り、風の気配までが鮮やかに描かれています。

この作品で大切なのは、勢いに任せすぎないことでしょうか。

音楽は勢いよく前へ進んでいきますが、言葉の輪郭は保ち、子音は明確に、母音は明るく響かせたいところです。

冒頭の"Frühling läßt sein blaues Band” は、青いリボンが風に乗ってひらりと通り過ぎるような軽さで、風の流れに自然に乗る響きが理想でしょう。

春を目で追いかけるような感覚も必要です。

終わりの “ja du bist’s!” は、春の到来をはっきりと告げる場面ですが、ここではあえて溜めを作らず、息を流し続けることで、春が自然に立ち上がる瞬間が生まれます。

そして、忘れてはならないのが後奏です。

長い後奏にも春の気配は描かれ続けていて、音が終わるその瞬間まで物語を保つことが、この曲の完成度を大きく左右します!

春の入口に立つような季節には、あらためて心に響く名曲です。

H. ヴォルフ《Er ist’s》

(詩:Eduard Mörike/日本語訳:藤井宏行)

Frühling läßt sein blaues Band

Wieder flattern durch die Lüfte;

Süße, wohlbekannte Düfte

Streifen ahnungsvoll das Land.

Veilchen träumen schon,

Wollen balde kommen.

Horch, von fern ein leiser Harfenton!

Frühling, ja du bist’s!

Dich hab ich vernommen!

春が青いリボンを

再び空にたなびかせると

甘美で懐かしい香りが

地に触れその胸ときめかす

菫はすでに夢見ている

間もなく花咲くことを

……聞いてごらん、遠くからかすかなハープの音が!

春、そうだおまえだ!

おまえの訪れをわたしは聴いたのだ!

他の歌曲とあわせて演奏した際の記録がありますので、ご参考までに掲載いたします

※本ドイツリート談話シリーズでは、季節性を踏まえ、近現代ドイツリートを中心に楽曲を抜粋して紹介しています。

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高橋華子|Hanako Takahashi

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